田園楽七首 其六 |
桃紅復含宿雨、
桃花は紅に、また含むゆうべよりの雨で
柳緑更帯春煙。
柳緑は更に帯びる春のかすみで
花落家童未掃、
花が散り落ち、召使いの少年は掃除をしない
鶯啼山客猶眠。
ウグイスが鳴く、山荘の客人はなお眠ったまま |
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桃の花は、夕べの雨を含んでつやつやといっそう紅色あざやか、
柳は青さを増して、春のかすみにけむる
花が庭先に散り敷かれている、召使いの少年は掃き清めたりはしない。 ウグイスがしきりに鳴くのに山荘のあるじはまだまだ夢うつつ。
この詩は孟浩然の「春暁」と唱和したように心になじんでくる。
詳細が知りたい > 孟浩然とのページに
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田園楽:春のぼんやりした、けだるい情景の中で。
王維は高級官僚でしたが、孟浩然のように自然の中での暮らしを愛しました。妻との早い死別れがそれを強めたのでしょう。宮使いの合間に、都の郊外にある山荘で悠々自適の生活を楽しんだのです。
こうした生き方を『半官半隠』といいますが、王維は地位や名誉は必ずしも心を満たすものではないと思っていました。
桃紅復含宿雨:桃の花は夕べの雨を含んで、つやつやと赤く。 ・宿雨:前日から降り続いている雨。
柳緑更帯春煙:柳は青さを増して、春の雨靄が漂っている。 ・春煙:雨靄。
花落家僮未掃:(その鮮やかな花が雨に打たれて、庭に落ちている。)庭に散り敷かれた花はそのままにして、召使にはかせたりはしない。 ・家僮:召使。
鶯啼山客猶眠:鶯がしきりに鳴くなか、山荘の主は、夢うつつ。 ・山客:山荘の主。王維のこと。
雨と靄、遠くの景色は春煙で水墨画の様なモノトーンの世界、その中に桃の紅と柳の緑が色あざやかに詠い込まれる。
雨に濡れた庭の土はもっとも黒い。その上に散り敷かれた花、花びらも美しいのだろう。急いで召使に履かせたりはしない。自然のまま、自然の風情が一番きれいだ。鶯が鳴く中、朝寝坊をする
休みはたっぷり取って山荘でのんびり田園生活する。
其の六の詩は王維の生活そのものを詠っており、春の朝の景を写した詩として、王維の佳作のひとつに数えられています。対句も見事で、完成された詩美がうかがえます。ところで、「桃紅」を妻?陽の人、「柳緑」を王維自身の比喩と見れば、はなはだ意味深長な情景が想像されます。「山客」つまり王維自身は鶯が鳴いても眠っており、「家僮」は夫婦の朝寝に遠慮して、庭も掃除しないでいるという詩になるわけです。
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